あれ、痴漢…?
あれ、痴漢…?
8月の終わり、暑い日だった。僕はイレギュラーで早朝の満員電車に乗っていた。久しぶりのスーツ。暑いのでジャケットは手に持つことにした。
うん、これは“逆に”、面白い。
だって俯瞰してみれば、早朝にネクタイを緩め、ジャケットを手に持ちながら、暑そうにハンカチで額を拭っている自分である。どの要素を取ったって完璧すぎるトラディッショナルジャパニーズビジネスマンの様相であって、それが自分にとっては、まるで巧妙な仮面をかぶって社会に潜入捜査しているような気分になったから。
おもてなしの精神をかなぐり捨てたような機械的なで周期で、強風を吹きつけてくる電車のエアコンも、これはこれで自分を放っておいてくれているような感じがして”逆に”良い。厚かましくも「この人は暑そうな格好をしているから風を多めに当てよう」なんていう感じで、僕にばかり風を送られても、恥ずかしさのあまり逆に深部体温が上がってしまう。
「こんな日もあって悪くないな」。
普段、電車のなかでは、日常と訣別するようにジャズに聴き浸ることが多いが、今日はこの仮面のままの自分の感じでやれることがしたい。そこで、普段は自宅でやっている「SHERLOCKのシャドーイング」をすることに。もちろん声には出せないので、口の中の舌だけを動かすように、シャドーイングをしていた。
そのとき。
ふいに、妖艶な触り心地、気色の悪い快感が右の太ももに走った。
…、いやいや、そんなわけない。
ただあまりにも変だ。
集中していたので気づかなかったが、本当はもっと前から感じていたのかもしれない。いよいよ僕の中である種の臨界点を突破したような違和感、そんな感じがした。
なぜ気色悪いのか。まず物が当たっているにしては異様なほど、太腿の曲線に吸い付くように順応している接触感。それだけじゃなく、その接触部分がやけに、暖かい。リネンの細身のスーツだった。
最初は何かわからない。まだ、痴漢だとも思ってない。確かに相当な混み具合である。ただ、僕の右太腿の外側の一部が妙な暖かさを感じている、それだけだった。一旦、僕は、SHERLOCKに向き直った。
・・・
…スリ。
いや、、え?
僕の右太腿の横側にあった滑らかな圧迫感が優しく、静かに、前後に揺れているのを感じた。その接触にはあからさまな「熱」があった。
この時僕は初めて疑った。これ、痴漢…??
高校生の頃、友達の男の子が痴漢されだという話しを少し聞いたことがあったが、僕は少なくともこれまでの人生、無縁だった。
次第に、「謎の圧迫感」の動きが大きくなるのを感じた。まるで太ももの太さを確認するような動きにも思える。
いよいよ、僕の太ももの前方、何かが上の方に伸びてくるのを感じた。そして僕は、”何か”が目指している「目標到達地点」を確かに理解してしまったような気分になった。
その瞬間、僕は誰かに伝えるように、はっきりとした動作で、その場で体勢を立て直すような動きをとった。その直後、”何か”は消えた。
元記事URL: https://note.com/reitsuzuki/n/ndfc612bea771 公開日: 2023-10-10 18:00
This line appears after every note.
Notes mentioning this note
There are no notes linking to this note.