クラシック
クラシック
ウェストボーン・グローブの喧騒が遠のく夕暮れ時。アーンドル・スクエアの木々が、微かに金色に輝いている。窓辺に立ち、ロンドンの空が紫がかった青からオレンジへと変わっていくのを眺める。この瞬間、私は存在と非存在の境界にいるような感覚に包まれる。
Harris Tweedのジャケットを脱ぎ、祖父の形見の銀製懐中時計をそっと置く。時計の秒針の音が、静寂の中で奏でる儚いリズム。
レコードプレーヤーに針を落とす。Mozartのピアノ協奏曲第21番が流れ出す。最近、クラシック音楽にはまっている。その理由は複雑だが、何より自分との距離が近くなっていくのを感じるからだ。
Tricker’sの革靴を脱ぎながら、ふと東京での学生時代を思い出す。あの頃は、友人たちとEXILEやBTSの話で盛り上がっていた。今、彼らの顔や声の違いは一目瞭然だが、当時は皆同じに見えた。距離感というのは不思議なものだ。
ウイスキーをグラスに注ぐ。Laphroaig 10年。その香りが、記憶と現在、ロンドンと東京を繋ぐ糸のようだ。
音楽が部屋に満ちていく。それは量子の波のように、私の存在のあらゆる可能性を同時に照らし出す。ピアノの旋律に、抑圧してきた感情が共鳴する。オーケストラの壮大な響きに、内なる矛盾が浮かび上がる。
窓の外では、近所の人々が犬の散歩に出かけていく。彼らの姿が、私の目には重なって見える。まるで、一人の人間の無数の可能性が同時に存在しているかのように。
グラスを傾け、ウイスキーを一口。その味わいが、舌の上で変容していく。苦みと甘み、スモーキーさと滑らかさ。相反する要素が調和する瞬間。それは今の私の心境そのものだ。
Mozartの音が静かに消えていく。針を持ち上げ、次のレコードを選ぶ手が僅かに躊躇う。今夜はどんな自分に出会えるだろう。期待と不安が、量子もつれのように絡み合う。
Nakajimaが静かに部屋に入ってくる。彼の存在が、新たな変数としてこの空間に加わる。彼の瞳に映る私は、どんな姿をしているのだろう。
再び音楽の海に身を委ねる。この瞬間、私はロンドンにいて、同時に自分の内なる宇宙を旅している。そして、その両者が不思議なほど一致している。
Atogaki
クラシック音楽を最近聴いている。いくつか理由はあるが、兎にも角にも多少聞き続けていると、自分との距離感が近くなっていくのがわかる。この距離感の近さというのは非常に重要だと思う。例えば昔、子供の頃に聞いたEXILEはどっちがAtsuhiでどっちがTakahiroが歌っているのかわからなかったのだから。今となってはBTS大ファンの母親も、当時初めてみたときは各メンバーの顔の違いがわからなかった。距離感の遠さというのもはそんなもの。3階席から肉眼でステージに立つものを見るようなものだ。そんなの、どの人間もほぼ一緒ですからね。
都築怜
元記事URL: https://note.com/reitsuzuki/n/n536a408be2ed 公開日: 2024-08-16 18:00
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