ブラームス4番

ブラームス4番

ブラームスの第4番交響曲が部屋に満ちていく。窓から差し込む8月の陽光が、音の波とともに揺らめいているかのようだ。私は目を閉じ、音楽に身を委ねる。

この曲を初めて聴いたのは、まだ東京にいた頃。当時は複雑な和声の動きについていくのが精一杯だった。しかし今、ロンドンでの生活が5年を過ぎた今、この音楽は全く異なる響きを持って私の内側に浸透してくる。

第一楽章の冒頭。弦楽器の旋律が、まるで吐息のように降り注ぐ。それは私の胸の奥で、懐かしさと哀愁の入り混じった感情を呼び覚ます。東京の喧騒、家族の顔、学生時代の記憶。それらが音符とともに浮かんでは消えていく。

私は深くため息をつく。目を開けると、窓の外にはポートベロー・マーケットの賑わいが見える。カラフルな建物、行き交う人々。彼らの声が、かすかに室内に漏れ聞こえてくる。その喧噪と、流れる交響曲のコントラストが、妙に心地よい。

第二楽章に移る。ホルンの柔らかな音色が、まるで誰かの声のように語りかけてくる。それは誰の声だろう? Alice? Lily? それとも、遠く離れた日本の両親? 想像力が掻き立てられ、心の中で対話が始まる。音楽が私の内なる声となり、答えてくれる。

「本当に、ここでいいのだろうか」 その問いが、突如として湧き上がる。ロンドンでの生活、ブログの執筆、人間関係。全てが順調なはずなのに、どこか満たされない感覚が拭えない。

第三楽章のスケルツォ。躍動的なリズムが、私の思考を加速させる。この曲がブラームスの最後の交響曲だったことを思い出す。彼は、この作品に何を込めたのだろう? 人生の総括? それとも、新たな挑戦への意志?

私は立ち上がり、窓に近づく。通りを行き交う人々を見つめながら、自問する。「私は、本当に自分の音楽を奏でているのだろうか?」

最終楽章。情熱的で力強い音の渦が、部屋中を駆け巡る。それは、まるで人生そのもののように、喜びと苦悩、希望と絶望が交錯する。

音楽は、私の内なる矛盾を露わにする。安定を求める心と、新たな冒険への渇望。故郷への懐かしさと、この街での生活への愛着。全てが、この旋律の中で共鳴し、融合していく。

曲が終わりに近づく。最後の和音が鳴り響き、余韻が部屋に満ちる。深呼吸をすると、何かが変わった気がする。矛盾や迷いは消えていないが、それらを受け入れる心の余裕が生まれたような気がするのだ。

窓の外では、夕暮れが近づいている。私は静かにノートを開き、ペンを取る。新しい記事のアイデアが、音楽とともに芽生えていた。「生きることは、永遠の変奏曲である」そんなフレーズから、言葉が滑らかに流れ出す。

ブラームスの第4番は、今日も私に新たな問いと気づきをもたらした。そして私は、この問いと向き合い続けることこそが、自分自身の交響曲を紡ぎ出すことなのだと、静かに悟ったのだった。​​​​​​​​​​​​​​​​

Atogaki

ひたすらにブラームスの4番を聴いている。


元記事URL: https://note.com/reitsuzuki/n/nc6582e9fc9c3 公開日: 2024-08-20 20:58

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