進化論
進化論
朝もやの中、ハイドパークを駆け抜けていく。呼吸が肺を満たし、霧の中に溶けていく。ランニングシューズが舗装路を打つ音が、私の思考のリズムを刻んでいく。この日課は、ロンドンに来てからずっと変わらない。変わらないもの。それは安らぎを与えてくれると同時に、どこか違和感も感じさせる。
汗ばんだ体で帰宅し、シャワーを浴びる。温かな水が肌を伝う感覚に身を委ねながら、ふと考える。この街に来てから5年。私は進化したのだろうか、それとも単に変化しただけなのか。
タオルで髪を拭きながら、窓の外を眺める。アーンドル・スクエアの木々が、朝日に照らされて輝いている。葉の色が少しずつ変わり始めているのに気づく。秋の訪れだ。季節は確実に移り変わっていく。それは進化と呼べるのだろうか。
キッチンに向かい、コーヒーを淹れる。豆を挽く音と香りが、部屋中に広がる。マグカップを手に取り、リビングのソファに腰を下ろす。目の前の本棚に並ぶ本たちを見つめる。日本から持ってきた本もあれば、ここで購入した本もある。知識は確実に増えている。でも、それは本当の意味での成長なのだろうか。
コーヒーを一口飲み、温かさが体の中に広がっていくのを感じる。ふと、故郷の今治を思い出す。穏やかな瀬戸内海、家族の笑顔、幼い頃の思い出。懐かしさと共に、どこか切ない気持ちが込み上げてくる。あの頃の方が良かったのではないか、そんな思いが頭をよぎる。
しかし、すぐにその考えを振り払う。後戻りはできない。それは自然の摂理に反している。たとえ過去が美しく思えても、私たちにできるのは前を向いて歩み続けることだけだ。
立ち上がり、書斎に向かう。パソコンの電源を入れ、今日の仕事に取り掛かる。画面に向かいながら、今朝のランニング中に浮かんだアイデアを思い出す。世界は進化論のようなものだ。しかし、それは必ずしも良い方向への変化を意味するわけではない。そこにあるのは、ただの変化なのかもしれない。
キーボードを打つ指が止まる。窓の外を見やる。通りを行き交う人々、建物の形、街の雰囲気。すべてが少しずつ、でも確実に変化している。その中で私も、気づかないうちに変わっているのだろう。
再びキーボードに向かう。今日のブログ記事のテーマは決まった。「変化と進化の狭間で」。読者の反応が楽しみだ。彼らも同じような思いを抱いているだろうか。それとも、全く異なる視点を持っているだろうか。
文章を書きながら、自分の考えも整理されていく。過去を懐かしむことは決して間違いではない。しかし、そこに留まることはできない。私たちに許されるのは、今この瞬間を精一杯生きること。そして、未来に向かって歩み続けること。
陽が高くなり、部屋に差し込む光が強くなってきた。ふと顔を上げると、書斎の壁に掛けた時計が目に入る。祖父の形見の銀製懐中時計だ。時を刻む音が、静かに響いている。過去と現在、そして未来。それらはすべて、この小さな装置の中に詰まっているかのようだ。
仕事の合間に、窓を開ける。秋の風が頬をなでていく。深呼吸をすると、ロンドンの空気が肺に染み渡る。この街で過ごす日々。それは決して後戻りできない、かけがえのない時間だ。
パソコンに向き直り、再び文章を綴り始める。変化は避けられない。しかし、その変化をどう捉え、どう生きていくかは私たち次第だ。進化と呼べるかどうかは、後世の人々が判断することかもしれない。今の私にできるのは、この瞬間を精一杯生き、自分なりの足跡を残すことだけだ。
夕暮れが近づき、書斎に薄暗さが忍び寄ってくる。今日の仕事を終え、椅子から立ち上がる。窓際に歩み寄り、街の景色を眺める。建物の影が長く伸び、街灯が次々と灯されていく。変わりゆく光景の中に、永遠の何かを感じる。
明日もまた、新しい一日が始まる。変化の中に身を置きながら、自分の軸を失わないこと。それが、この複雑な世界を生きていく上での、私なりの答えなのかもしれない。
Atogaki
世界とは「進化論」みたいなもので、未来は必ず良くなるということではない。そこにあるのは進化ではなく変化、ということだ。だから、昔がよかったと嘆く人間がいるのは別に間違っていることでもないと思う。本当にそうかもしれないから。ただし、これまた進化論みたいなもので、例え昔がよかったとしても「後戻り」が許される世界ではないということだ。後戻りは自然の摂理に対して大きな誤りがあると思う。だから僕は、クラシックカーだったり昔のクラシックファッションだけを愛するような人間が嫌いなんだと思う。昔には戻れない。自分の好きなものは、過去に提示されたものの中で何を選ぶかということではない。自分が何を好きかを、あくまでも0ベースで模索することだ。
都築怜
元記事URL: https://note.com/reitsuzuki/n/nb1f4786cbf22 公開日: 2024-08-28 18:00
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