成城石井なんてただのコンビニ
成城石井に持つ一般的なイメージとしては、高級志向で良品揃いの「少し敷居の高いお店」といったところではないだろうか。
僕は違う。もっとコンビニエンスでcommonな存在だ。
成城石井は、いまだにあのときの青い思い出と共にある。
30歳になる前の僕はひどく焦っていた。
30歳になる前の僕はひどく焦っていた。
「文化的教養ゼロで30歳を迎える」ことに。
クラシック、バレエ、美術館のアート、オペラ、ミュージカル。
そういったものを通ってこなかった人間であることに恥ずかしさを覚えるようになっていた。
べつに他の人の文化的教養の程度はどうでも良い。
少なくとも僕は、ジェームズボンドのような英国紳士の道を歩むと決めた人間であって、
文化的な教養の成熟が自身の美学の追求、ひいては人間的成長だと信じている人間で、
そんな僕にとって、文化的教養に疎いことはあり得ない。
更に、僕の焦りを増幅させたのが、ユースチケットなるものの存在だ。
大抵、こういう文化的施設のチケットでは、「30歳未満の方のためのユースチケット」がある。
例えばNHK交響楽団のオーケストラだと、基本的にはチケット料金は「半額」になる。
映画を見るくらいの値段で日本最高峰のオーケストラを聴くことができるのだ。
それなのに。
30歳を迎えるまで、あとたった15ヶ月しかないじゃないか!
なんでこんな機会をみすみすと逃そうとしていたんだ!
自分はなんてバカなんだ!
怒りにも似たような感情に任せて、
最終的には怒りにも似たような感情に任せて、
怒涛の勢いで、独身貴族にものを言わして、
あらゆる文化体験を貪るように食い散らしてきた。
クラシックを聴くためにNHKホールやサントリーホールには毎月通った。
辻井伸行さんのピアノを聴くために名古屋まで行った。
ジャズの生ライブも聞いた。
劇団四季もみた。美術館にも毎月何かしらには行った。
新国立劇場ではオペラも見たし、発熱を拗らせながらもバレエも見た。
相撲、落語、歌舞伎、日本文化系にも触れた。
名画座でヌーヴェルヴァーグの映画も未漁った。
もう間も無く、20代という大きな太陽が地平の向こうに沈んでいく。
その最後の光の一線までもが消え去りようとする、
その瞬間まで、僕は走った。
突然だが20代独身諸君。
突然だが20代独身諸君。
有無を言わさず、すべてのユースチケットを申し込もう。
大抵事前申請が必要だから前もってやっておいた方がいい。
あとできれば
「S席(一番良い席)」で鑑賞しよう。
D席やE席は、ファミリーのための席だ。
君たちが座って良い場所じゃない。
君たちのように、子供やパートナーなど誰も連れて行く人がいないのに、
たった1席だけ、虫食いのようにDやEの席を潰してはならない。
去年はNHK交響楽団はS席が11,000円で、ユースチケットだと5,500円だった。
そのくらい払え。
会場や演芸による客層の違い
せっかくなら、場所とか演目の違いによる客層の違いみたいなものを書き並べておきたい。
まずNHKホールで聞くオーケストラの客層が最もカジュアル。
ツアー客みたいなのもいて、ジャケットを着ていない人も多いどころか、そもそも襟付きの服すら着てない人も多い。
中流家庭のシニア世代の老後の嗜み、的な文脈が強い印象。
やや席ガチャがある印象。大きく咳をする人とか、何度も座り直すとか、口臭いとか、そんなこともある。
サントリーホール、会社付き合いな感じで、やや社交的な匂いがする。
ビジネスマン同士か、あるいは子供を預けて聞きに来ている感じのミドルアッパーな共働き夫婦がおめかしして来ている。
NHK交響楽団が演奏する場所を変えてるだけなのに、客層はまるで違う。
流石にジャケットの1枚くらい羽織ってないと浮く。
オペラは、1番いる人たちの格が高いし、客層の国際色も豊か。
バレエもオペラに次いで格が高いが、目立つのはファミリー層で、バレエを本格的に習わせている娘を連れているケースが散見される。
成城石井、しか買えない
例えば平日のサントリーホール、19:00からの生演奏を聴くとなると、働き盛りの若手の僕は大変に急がないといけない。
他のおじさまの方々は、17:30にはサクッと仕事を切り上げて、軽くディナーして、それからサントリーホールに向かって、オーケストラの演目と演目の間ではグラスワインで乾杯しているかもしれないが、僕は違う。
周りが少し避けるほどの猛ダッシュで、演奏開始の本当にギリギリくらいにサントリーホールに到着するようなスケジュールだった。
ただ、演目と演目の間で、何か飲み物を買うのはお金がもったいない。
だから、会場近くでサクッと飲み物を買って、ついでに何かつまめるものを口に入れておかないと、演奏中、腹が減ってしょうがない。
なのに、コンビニがない。成城石井しかないのだ。
だから、僕は成城石井に駆け込んで、スコーンやベーグルと、カフェオレみたいなのを買って、パンを加えた小学生さながらのスタイルで会場へと駆け込んでいったのだ。
今となっては、愛おしさを感じるような懐かしさを感じる。