昼の月

いつものビルの屋上にいた。

椅子に座って、麦芽コーヒーを秒で飲み干す。

ぷはーっ、超うまい。

チル、とは、野球のリード、みたいな感じがする。

ベースがあって、だから束の間のリードを楽しむ。

その点、オフィス最上階のビルの屋上というのは、チルには最高のロケーションなのかもしれない。

地平線のごとく、水平線にピシャッと佇む長いバーカウンターのようなテーブルに腰掛ける。

屋根はないが、日差し多少隠れていて、まぁ少しの時間であれば、ここにいれる。

スマホをテーブルに置いて、前方を臨む。

ちょうど、テーブルの向こうはガラス張りになっていて、かなり遠くまで整頓された灰色のビルたちを見ることができる。

もう一個、麦芽コーヒー買っておけばよかったな。

そんなことを思いながら、音楽をかけようとスマホを手に取った、その時。

起動してない真っ暗のiPhoneがちょうど鏡のように機能して、空を映していた。

「つ、月?」

iPhoneの画面には綺麗でまん丸なお月様が雲と調和しながら、ひっそりと映し出されていた。

本当に月?お昼にも月って見えるんだっけ?と、僕はもう一度iPhoneのなかのまあるい光を凝視する。

上を見ればいいのはわかっているが、明るい空に対して昼間の月が見にくいと思ったので、だったらiPhoneに映るものを見たほうがよくわかると思ったのです。

しかしそれにしても本当に、本当に美しい。

夜空に輝く月は、周知の通り、本当は自ら輝いてはいない。

それでも、やはり月は輝いているように見えていて、だからこそ、夜の月は美しい。

そんな月が、本当に昼間にこんな綺麗に拝めるとは。

本当に自ら発光しているよう。

ちょっとどんなもんか、本物を見てみようか。

体をのけぞらせて上を見上げた。

「まぶしっ」

太陽だった。
読者は案の定、と思うかもしれないが、このときまで、僕は本当に月だと思っていた。


元記事URL: https://note.com/reitsuzuki/n/n02c43aa8683b
公開日: 2023-07-10 18:00