絵本『まほうのポケット』

まほうのポケット

むかしむかし、小さな村に、いつも不思議そうな顔をした男の子のトンがいました。

トンは毎日、ポケットに手を入れては「ないないない」とつぶやいていました。

「おやおや、何がないの?」と近所のカメのおじいさんが聞きました。

「ぼくのまほうだよ」とトンは答えました。「まほうがあれば、すてきなものがいっぱい見つけられるのに」

カメのおじいさんは首をかしげて、ゆっくり笑いました。
「まほうはね、すでにあるものの中にあるんだよ」

でもトンには意味がわかりません。

ある日、トンが森の中を歩いていると、風がふわっと吹いて、どんぐりが一つ落ちてきました。
トンはなんとなくそれをポケットに入れました。

次の日、トンが庭で遊んでいると、小さな石ころが光っていました。
「きれいだな」と思って、それもポケットに入れました。

川のほとりでは、平たい貝がらを見つけました。
「おもしろい形だな」と思って、それもポケットに入れました。

そのうちトンのポケットは、どんぐりや石ころや貝がらでふくらみ始めました。

ある雨の日、トンは家の中で退屈していました。
「ないないない。何をして遊ぼうかな」

ふと、トンはポケットの中のものを思い出しました。
どんぐりと石ころを取り出して並べてみると、なんだか小さな生き物のように見えました。
貝がらを耳にすると、貝がらは海の音を教えてくれました。

トンはどんぐりで笛を作り、石ころで模様を描き、貝がらでお話を聞きました。

雨の音が屋根を打つ中、トンの部屋は不思議な冒険の場所に変わっていました。

次の朝、トンはカメのおじいさんに会うと、大きな声で言いました。
「ぼく、まほうを見つけたよ!」

カメのおじいさんは微笑みながら「どんなまほう?」と聞きました。

「ぼくのポケットにはね、どんぐりや石ころや貝がらがあるんだ。でもね、よく見ると、どんぐりは笛に、石ころは絵に、貝がらはお話になるんだよ」

カメのおじいさんは「それがまほうだね」とうなずきました。

その日から、トンはポケットにあるものを大切にするようになりました。
石ころは宝石に、木の葉は船に、花びらは手紙になりました。

村の子どもたちも不思議に思って、トンのまわりに集まってきました。
「トン、そのまほう、教えて」

トンは言いました。「まほうはね、ポケットの中にあるよ。いつでも、どこでも」

子どもたちは自分のポケットを見つめました。
最初は何も見えませんでしたが、やがて、ポケットの中から小さな宝物を見つけ始めました。

村は少しずつ、色とりどりの冒険であふれるようになりました。

年老いたカメのおじいさんは、そんなトンと村の子どもたちを見ながら、静かにつぶやきました。
「まほうとは、持っているものを愛すること。それが一番のまほうだ」

トンは大人になっても、いつもポケットに手を入れては、「あるあるある」とつぶやいていました。

ポケットの中には、いつもどんぐりと石ころと貝がらがありました。
そして、その小さな宝物たちは、いつでもトンに新しい冒険を教えてくれました。

おわり

あとがき

お金を持ってから始める趣味にろくなものはない。

「いやいや、もう今持ってるじゃないか」と言われたらそれきりなのであるが、いつかに比べたら今が1番お金がない。そう考えれば、今すぐにでもあらゆることに手をつけて、好きになりたいのだ。好きになっておきたいのだ。これは1つの愛情証明だ。


元記事URL: https://note.com/reitsuzuki/n/ndf3925fb11c5
公開日: 2025-03-25 18:00